20 ÁIBMU
Áibmu 大気
ÁIBMU とは、北極圏の少数民族「サーミ」の言葉で、「空気、世界」という意味だ。今回の舞台は、ノルウェー、スウェーデン、フィンランド、ロシアにまたがる「ラップランド」。サーミがトナカイの狩猟や遊牧により、独自の文化を築いてきた大地だ。長い冬には妖艶なオーロラが夜空を彩り、今もサーミはトナカイ放牧を行い、自然と深く関わりながら極寒の地に生きる知恵を継承する。
サーミの伝統に、「ヨイク」と呼ばれる即興歌がある。
自然界の精霊の声を聞くシャーマンの声がヨイクの起源と言われ、太陽、月、山々など自然に向けて歌われてきた。人物の人柄を表したり、子供の誕生を表現したり、人と人とのコミュニケーションのためのものでもあった。ヨイクは「歌う」のではなく、「あなたをヨイクする」、「空の雲をヨイクする」というように使われ、移りゆく自然の情景や心情を鮮やかに切り取る。近代化の中で一時は社会から抑圧されたヨイクだが、1970年以降、ニルス・アスラク・ヴァルケアパェーやマリ・ボイネなど、素晴らしい歌い手の登場により復興への歩みが始まった。
極北の冬景色、雪原に放たれたトナカイたち… 厳しくも美しい大自然の情景に寄り添うように、私たちを取り巻く空気のように、温もりある音楽を創造するのは、ヨイクの担い手Wimme Saari(ウィメイ・サーリ)。動物の声や自然界の音を交えた、彼のヨイクは深い味わいがある。また彼は、フィンランドのバス・クラリネット奏者Tapani Rinne(タパニ・リンネ)と組み、ジャズや電子音などを取り入れつつ、自分たちのルーツに深く根ざした新しいヨイクにも挑戦している。
今回のエピソードでパフォーマンスの撮影が行われた、ヘルシンキの美しい木造建造物「カンピ大聖堂」や、1900年始めに作られた建物内の不思議な空間は、自然とひとつになる「ヨイク」の精神世界を、さらに美しく引立てている。
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